Message from the President


石谷 邦彦 先生
The International Research Society of the SCPSC理事長
医療法人東札幌病院 理事長

「第5回がん緩和ケアに関する国際会議」のご案内
新しい時代を迎えようとしているがん緩和ケア

“がん緩和ケアのオリンピック”とも称される「がん緩和ケアに関する国際会議:Sapporo Conference for Palliative and Supportive Care in Cancer (SCPSC)」は、2026年7月に開催される第5回SCPSCのプログラムを確定しご案内の運びとなりました。
ここ数年来、私は緩和ケアの研究と実践がターニングポイントを迎えていると各所でお話ししてきました。その根拠の一つは、がん、神経難病、慢性心不全、また昨今のCOVID-19感染症などさまざまな疾患に特異的な緩和ケアを専門的に提供し、かつそれらの独自の科学的研究を行う施設・研究者が誕生している現状に依ります。今一つは国・地域の実情や施設の思想により意図的に全ての疾患を対象とする非特異的な緩和ケアを提供する施設・医療者の存在です。この後者の事実は世界の保健医療行政の上で大きな意味を持っています。
第5回SCPSCのプログラムは、前者の現況を鑑みてpalliative oncologyとpsycho-oncologyの革新的なプログラムの編成を試みました。そして見事に期待していた通りのそれぞれの分野の革新的な研究者の登場を得ることが出来ました。すなわちすでにターニングポイントの時期を経て、新しい緩和ケアの研究と実践の時代であることを実感しているところです。
その基本となる4つのシンポジウムの企画は以下の方々に依頼しました。
「1. オピオイド」に関する企画はDr. Russell PortenoyとDr. David Huiが、「2. 免疫療法を含め化学療法などの緩和的がん治療」に関する企画はDr. Areej El-JawahriとDr. Shunichi Nakagawaが、「3. psycho-oncology」の企画はDr. Friedrich StiefelとDr. Sarah Dauchy そしてDr. Camilla Zimmermannが、「4. 安楽死問題」の企画はDr. Luc Deliens とDr. David Currowが 考案し、それぞれ非常に革新的な内容となっています。詳細はSCPSCのホームページをご覧ください。http://www.sapporoconference.com/general_info/schedule.html
また2023年12月月22日に発刊したニュースレターIRS-News Letterで述べたように、一般演題の発表は口演セッションとポスターセッションの二部構成とし専門家を交えての教育的な運営を計画しています。ここに多くの方々の演題の応募を期待しています。その他教育講演としてDr. Karen Steinhauserによる「スピリチュアリティ、スピリチュアル・ケアの比較文化学」そしてDr. Mark Taubertによる「未来のケアプラニングー緩和ケア患者のためのよりよいプラニングに関するヨーロッパの視点」の講演が企画されています。特別公演にはDr. Herwig Czechによる「The Lancet Commission on medicine, Nazism, and the Holocaust: historical evidence, implications for today, teaching for tomorrow」が確定しています。このテーマは緩和ケア、医学・医療にのみならず、延いては現代の世界のカオスに対し重要な示唆を与えるものと思います。
SCPSCは3年毎にがん緩和ケアに携わる世界の一流のリーダー達が重要な課題について競合的ではなく議論し合う場となっています。そのため“がん緩和ケアのオリンピック”と親しみを込めて言われています。palliative oncologyとpsycho-oncologyに関係する方々、そしてがんに限らず他の疾患の緩和ケアに携わる多くの方々のご参加を期待申し上げる次第です。

2024年10月15日

Topics

興味深い研究論文をご紹介します

Impacts of Immunotherapy on Patients With Aggressive Thyroid Carcinomas
Alfred king-yin Lam
JAMA Oncol. Published online Oct 24, 2024. 
doi:10.1001/jamaoncol.2024.4202
 
Focus on the blind spots of clinician-patient interactions:A critical narrative review of collusion in medical setting
Sophia Deliyanidis, Friedrich Carl Stiefel et al
Journal of Health Psychology 1–17, 2024
DOI: 10.1177/13591053241284197
 
Improving our understanding of the complex relationship between cancer-related cognitive decline and Alzheimer's disease
 Mackenzie E Fowler, Michael Crowe
J Natl Cancer Inst. 2024 Sep 1;116(9):1414-1416.
doi: 10.1093/jnci/djae146.
 
AAP Issues First Opioid Prescribing Guideline for Children
Samantha Anderer
 JAMA. Published online Oct 25, 2024.
doi:10.1001/jama.2024.21821
 
Is Histopathology Deep Learning Artificial Intelligence the Future of Precision Oncology?
Vincent M Wagner
 Journal of Clinical. Oncology. Vol 42, No 30, 2024
doi.org/10.1200/JCO-24-01271

Member's News

新理事就任のお知らせ


高田 弘一 先生
札幌医科大学医学部 腫瘍内科学講座教授
札幌医科大学附属病院腫瘍診療センター長

Thrilling News: A Joyous Announcement!

BMJSPCare は、がん緩和ケアに関する国際研究学会(IRS-SCPSC)と提携し、ニュースレターをBMJSPCフォーラムで共同発行しています。

2024年7月27日、SCPSCニュースレター夏号がBMJSPCareフォーラムに掲載されました。
 

 
BMJ SPCare (Please click)

History

Dr. Robert Twycross 追悼とその偉大な業績

Dr. Robert Twycross が、突然の訃報により永遠の安らぎに包まれました。この悲しいニュースはTwitterやLinkedIn、さらにはその他のニュースメディアを通じて瞬く間に広まり、緩和ケアの分野における彼の偉大な業績とその尊敬すべき人柄が再認識されています。ここに、彼の親しい友人であるDr. Mark Taubertから寄せられた追悼文をお届けいたします。

 
 
(写真 Dr. Robert Twycross) 

ロバート・トワイクロス先生の業績に関しましては、特に多くの人に尊敬され、広く活用されている「Palliative Care Formulary」などを通じて知ることができます。
詳細については、以下のURLをご覧ください。
https://www.pharmaceuticalpress.com/resources/article/a-tribute-to-robert-twycross-honouring-a-50-year-career-in-hospice-and-palliative-care/
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。


マーク・タウバート先生の追悼文




Dr. Mark Taubert
Professor, Cadiff University School of Medicine, UK
Vice-President of the  European Association for Palliative Care

緩和医療のパイオニアであり、先見の明を持つロバート・トワイクロス先生が、2024年10月20日(日)にお亡くなりになった。その知らせは私にとってショックなものであった。というのも、私はつい最近の今年7月に先生とEメールのやり取りをしたばかりで、その時先生は、健康状態は芳しくないものの、状況の好転を感じていると仰っていた上、サイクリング中に事故に遭った私の一刻も早い回復を切に願ってくださったのだ。しかし良く考えると、昔から自分より他人を優先される方だった!
 
1965年にオックスフォード大学医学部を卒業、1971年にはセント・クリストファー・ホスピスにてデイム・シシリー・ソンダ―スの下で働いていたロバート。彼の研究は、当時イギリスでがん疼痛管理の標準処方とされていた『ブロンプトン・カクテル』と呼ばれる薬剤(処方によっては、コカイン、ヘロイン、アルコール、クロロホルムが含まれていた)の有用性に疑問を投げかけるものであった。この研究により、その後ブロンプトン・カクテルは廃止され、よりエビデンスに基づいた治療法が採用されるようになったのである。1976年から1987年までは、サー・マイケル・ソベル・ハウスの指導医を務め、1988年、ソベル・ハウスが世界保健機関(WHO)の緩和がんケア協力センターに指定されると、ロバートは1988年から2005年までセンター長を務めた。
また、オックスフォード大学でInternational School for Cancer Care緩和ケアコースを毎年開講、実施し、世界中の緩和医療従事者が世界最先端の教育を受けられる場を提供。2001年には名誉フェローに選出された。
 
ロバートは、今日の緩和ケアにとって重要な役割を担う数々の学会の創設メンバーであった。ヨーロッパ緩和ケア学会、英国緩和医療学会、国際疼痛学会、緩和ケア研究学会などである。また、Palliative Care Formulary(『トワイクロス先生の緩和ケア処方薬』)を生んだ著者でもある。2001年にはpalliativedrugs.comを共同で立ち上げ、世界中の医療専門家向けに中立的な医薬品情報を提供。緩和医療入門の標準テキストとなったIntroducing Palliative Care(『(緩和ケア入門』)をはじめ、数多くの出版物がある。その中で私が重要だと考えるメッセージのひとつが、患者や家族に不確実性を伝えること、特に予後に関わる不確実性を伝えることであり、緩和ケア科をローテーションする医学生には、日頃から彼のアドバイスを伝えている。ロバートは、緩和医療とホスピス運動の基礎を築き、インスピレーションを与えた人物として人々の記憶に残るだろう。私の仕事机の上にある彼の本は、毎日彼のことを思い出させてくれる。私たちの想いは、彼のご家族とご友人とともにある。


Report

パリ訪問リポート:サクレ・クレール寺院とフランス国立緩和ケア・終末期医療センター(CNSPFV)
 
本号の巻頭写真には、フランス・パリにあるサクレ・クール寺院(Basilique du Sacré-Cœur)の写真を選びました。この写真は、今年5月に石谷理事長がフランス国立緩和ケア・終末期医療センター(CNSPFV)を訪問された際、モンマルトルの丘に立ち寄り撮影されたものです。白亜の寺院は、パリの高台モンマルトルにそびえ立ち、「聖なる心臓」という名の通り、信仰と癒しの象徴です。寺院の正面には、左にルイ9世、右にジャンヌ・ダルクの騎馬像が並び、フランスの歴史と信仰が美しく融合した姿を見せています。
サクレ・クール寺院は、1871年の「パリ・コミューン」で犠牲となった市民を悼むために建立されました。このコミューンは、フランスのプロイセン戦争敗北後、パリ市民が労働者の権利や共和制を求めて自立政府を樹立した事件で、わずか2か月で鎮圧されたものの、多くの命が失われました。寺院は、その悲劇から生まれた祈りと癒しへの願いを込めて建てられ、人々に平安をもたらし続けています。

 
巻頭写真は、石谷理事長の「新しい時代を迎えようとしているがん緩和ケア」というメッセージとも響き合っているように感じられます。過去の痛みと犠牲に思いを馳せつつ、新たな未来を築くために、苦痛を和らげ、安心感や生活の質の向上に寄与する緩和ケアの哲学は、サクレ・クール寺院の精神とも重なるものがあります。
また、グループ写真は、石谷理事長がフランスの国立緩和医療・終末期ケアセンター(CNSPFV)を訪問した際に撮影されたもので、CNSPFVはフランスにおける緩和ケアと終末期ケアに関する研究、支援、教育に特化した機関です。訪問中には、SCPSC2026の概要が説明され、CNSPFVの皆様が参加の意向をお示しくださいました。石谷理事長のビジョンに賛同し、国際的な協力を深めることに対するCNSPFVチームの熱意に感謝を申し上げます。

 

  

Announcement from the SCPSC Team


編集チームよりご挨拶申し上げます。
日頃より、IRS-SCPSCニュースレターにご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。皆様のご支援のおかげで、この度創刊一周年を迎えることができました。この一年間、石谷理事長からのメッセージを掲載し、SCPSCに対する想いをお届けしてまいりました。また、「History」の創設も、読者の皆様にSCPSCについてより深くご理解いただくための貴重な取り組みであったと感じております。貴重なご見解をお寄せいただいた多くの尊敬すべき寄稿者の皆様に、心より感謝申し上げます。さらに、前号よりBMJSPCareとの共同発行を開始することができました。今回の連携が実現したのは. Dr.Declan WalshとDr. Mark Taubertのお力添えのおかげです。誠にありがとうございます。今後も皆様と共に歩んでいけることを楽しみにしております。最後になりましたが、翻訳チームとプログラミング指導者の皆様のご指導に心より感謝申し上げます。今後ともよろしくお願い申し上げます。